回復見込みのない精神病
一旦は一生を添い遂げようと思って結婚しても、離婚に至る夫婦は多いです。
法律上、離婚原因はいくつか定められていますが、その中に「回復見込みのない精神病」があります(民法770条1項4号)。
回復見込みのない精神病とは、具体的にどのような精神病なのでしょうか。また、回復見込みのない精神病を原因として離婚する場合の手続方法も知りたいところです。
今回は、法律上の離婚原因の1つである、「回復見込みのない精神病」について、解説します。
1.回復見込みのない精神病とは
法律上の離婚原因の1つである「回復見込みのない精神病」とは、具体的にどのような状態を意味するのでしょうか。 どのような精神病でも離婚が認められる分けではありませんので、まずはどのような精神病の場合に、回復見込みのない精神病の要件を満たすのかを見てみましょう。
回復見込みのない精神病とは、統合失調症や躁うつ病、早発性痴呆や麻痺性痴呆、認知症やアルツハイマー病、偏執病、初老期精神病などが代表的な症状です。重度の身体障がい者の場合にも、この要件を満たして離婚が認められることもあります。
これらに対して、アルコール中毒や薬物中毒や劇物中毒、ヒステリーやノイローゼ、精神衰弱などは回復見込みのない精神病という場合の「精神病」にはなりません。これらを理由として離婚することはできないことになります。 このように、回復見込みのない精神病を考える場合、まずはどのような精神病や症状の場合に離婚が認められるのかという点を抑えておくことがポイントになります。
2.回復見込みのない精神病が認められる条件
「回復見込みのない精神病」を理由とする離婚が認められるためには、いくつかの条件があります。重要なのは、単に相手方配偶者が不治の精神病にかかったからといって、その一事だけをもって離婚できるわけではないのです。
回復見込みのない精神病の要件で離婚するためには、
- ①治療が長期間に及んでいること
- ②離婚を求めている配偶者が、それまで誠実に療養看護したり、生活の面倒を見てきたこと
- ③離婚後に看護する人や療養費用に関する対処など
精神病を患っている相手方配偶者の離婚後の生活について具体的な方策があることなどが必要になります(最高裁判決昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁参照)。 治療期間が短かったり、それまできちんと看護をしていなかったり、離婚後の相手方配偶者の生活に不安がある場合などには離婚が認められにくいので、注意が必要です。
3.回復見込みのない精神病を理由に離婚する手続方法
回復見込みのない精神病を理由として離婚請求をしたい場合には、どのような手続をとれば良いのでしょうか。
この場合、相手方配偶者に対して離婚訴訟を起こすことが考えられます。ただ、相手方配偶者が回復見込みのない精神病を患っていることから、同人の判断能力の有無が問題になってきます。相手方配偶者が植物状態などで、自分で訴訟活動を行うことができない場合があるからです。 このような場合、まずは、相手方配偶者について後見開始の審判を申し立て、相手方配偶者に成年後見人をつけてもらう必要があります。成年後見人とは、判断能力の無くなった人の財産管理や身上監護をする人のことで、裁判などでは本人の法定代理人になります。
後見開始の審判申立ては家庭裁判所で行い、家庭裁判所が成年後見人を選任します。成年後見人が選任されたら、その成年後見人を法定代理人として、相手方配偶者に対し、離婚訴訟を提起することになります。
そして、離婚裁判では、相手方配偶者が回復見込みのない精神病にかかっているという証拠が必要になります。主治医に診断書を書いてもらうなどして、本当に回復見込みのない精神病にかかっているのかどうかなどの証拠を集めましょう。
また、同時に、今まで自分が誠実に看護をしてきた事実や、離婚後配偶者が生活していける見込みがあることなども説明する必要があります。
まとめ
法律上の離婚原因の1つには、相手方配偶者が「回復見込みのない精神病」にかかっている場合があります。回復見込みのない精神病とは、統合失調症や躁うつ病、アルツハイマー病や偏執病などです。アルコール依存や薬物依存、ノイローゼなどはこれにあたりません。回復見込みのない精神病が認められるには、誠実に看護してきたなどの条件も必要になります。離婚訴訟を起こす際には、相手方配偶者について成年後見人を選任する必要が生じることもあります。