不貞行為をした配偶者とその相手方はどのような責任を負うことになるか
一方配偶者は、他方配偶者が不貞行為した場合、他方配偶者のみならず、不貞行為の相手方(不倫相手)に対しても慰謝料を請求することができます。
この慰謝料請求は、法的には不法行為に基づく損害賠償請求になります。
そして、他方配偶者と不倫相手は、この慰謝料請求に関して、「不真正連帯債務」を負います。
といっても、この「不真正連帯債務」という言葉はあまり耳慣れないと思います。
そこで、今回は、慰謝料請求で問題となる不真正連帯債務について解説します。
1.不真正連帯債務とは何か
不真正連帯債務は連帯債務の一種です。
連帯債務というのは、複数の債務者が同一の内容の給付(お金を返すこと等)について履行義務を負うことをいいます。
普通の連帯債務は、例えば、債権者が連帯債務者の一人の債務を免除した場合、他の連帯債務者もその免除の恩恵を受けます。
しかし、不真正連帯債務の場合は、このような恩恵を受けません。
つまり、不真正連帯債務の方が、普通の(真正の)連帯債務よりも重い責任を負うことになるのです。
ところで、不貞行為とは、簡単にいえば、結婚している人が配偶者と別の異性と男女関係(性的関係)を持つことです。
不貞行為は、法定の離婚原因になっています(民法770条1項1号)。
不貞行為が法定の離婚原因となっていることは、夫婦には貞操義務(配偶者以外の者と性的関係をもたない義務)があるということを意味します。
相手方配偶者が不貞行為をして貞操義務に違反した場合、不貞された方の配偶者は、このことを離婚原因として主張できるほか、相手方配偶者に対して慰謝料請求をすることができます。
そして、慰謝料請求をする場合、他方配偶者だけではなく、不貞相手に対しても、貞操権を侵害したことなどを理由として、同じように慰謝料請求をすることができます。
例えば、夫がある女性と不倫した場合には、夫と相手方女性の2名に対して慰謝料を請求することができます。
夫と相手方女性は、この慰謝料請求について連帯責任を負います。
そして、この場合の連帯責任が「不真正連帯債務」になります。
2.配偶者にも不貞相手にも全額請求できる
では、不真正連帯債務の場合、具体的にはどのような請求ができるのでしょうか。
以下では、具体的な事例で見てみましょう。
例えば、夫の不貞行為による慰謝料が300万円である場合、夫と相手方女性は、この慰謝料300万円について不真正連帯債務を負うことになります。
この場合、妻は、夫に対して300万円を請求することもできますし、相手方女性に対して300万円を請求することもできます。
また、夫から200万円、女性から100万円ずつ支払ってもらってもかまいませんし、夫と女性のそれぞれから150万円ずつ受け取ってもかまいません。
つまり、300万円の範囲であれば、どの債務者からどれだけ支払を受けても良いことになります。
例えば、相手方女性が「私の方が責任が少ないから100万円しか払わない」と言っても、そのような主張は通らないということになります。
妻は、夫と相手方女性のどちらからでも、ともかく300万円に満つるまで、支払いを受けることができることになります。
これが不真正連帯債務の内容です。
3.債務額を超えて二重に慰謝料を受け取ることはできない
もっとも、請求者(一方配偶者)は、他方配偶者と不貞相手に対して二重に慰謝料を受け取ることはできないということに注意が必要です。
例えば先の例で、妻が、夫と相手方女性に対して、300万円の慰謝料請求をするとします。
この場合、夫と相手方女性が不真正連帯債務の関係になるので、妻の当初の請求としては、夫に300万円、相手方女性にも300万円の支払を請求することになります。
これは一見すると、合計で600万円の請求をしているようにも見えます。
また、夫からも相手方女性からも300万円ずつ受け取ることができそうにも思われます。
しかし、これは認められません。
夫と女性はあくまで「慰謝料300万円(不法行為に基づく損害賠償債務)」という1つの債務を負っているのであり、それぞれが300万円ずつの債務を負っているわけではありません。
したがって、妻は、夫か相手方女性のどちらかから300万円に満つるまで支払いを受けると、その時点でそれ以上の請求はできないことになります。
あくまで回収できる金額は300万円の範囲内ということになります。
このように、不真正連帯債務は、各債務者から債務額(上記例でいえば300万円)を超えて二重に支払いを受けられるということではないことに注意する必要があります。
まとめ
配偶者が不貞をした場合には、配偶者と不貞相手に対して慰謝料請求ができます。
この場合の配偶者と不貞相手の関係は、不真正連帯債務の関係になります。
不真正連帯債務の場合には、債務者のどちらに対しても債務の全額の支払いを請求できます。
ただし、不真正連帯債務の場合にも、対象の債務は1つなので、債務者らに対して債務額を超えて二重に支払いを受けることはできません。