求償権とは
一方配偶者は、他方配偶者が別の異性と不貞(不倫)した場合には、不貞相手に対して慰謝料を請求ができます。
この場合、不貞相手と他方配偶者は、この慰謝料(不法行為に基づく損害賠償債務)に関し、不真正連帯債務の関係になります。一方配偶者は、他方配偶者及び不貞相手に対し、慰謝料の全額を請求することができます。もっとも、不真正連帯債務の関係にあるということは、不貞相手が慰謝料全額を支払った場合、他方配偶者に対してその一部の負担を請求してくる可能性があります。この請求に関する権利のことを「求償権」といいます。
不貞相手が他方配偶者に求償権を行使した場合、他方配偶者は不貞相手に慰謝料の一部を負担しなければなりません。
一方配偶者が他方配偶者との婚姻を継続する場合、不貞相手が求償権を行使すれば、夫婦一世帯の財産が減少するという点で不利益を受ける可能性があります。
今回は、慰謝料請求された場合の求償権について解説します。
1.他方配偶者と不貞相手は不真正連帯債務関係になる
一方配偶者は、他方配偶者が不貞行為(不倫)をした場合、他方配偶者のみならず不貞相手にも慰謝料を請求することができます。
両者に慰謝料を請求できるのですが、一方配偶者が不貞相手だけに慰謝料請求をする場合もあり、このような場合であっても、不貞相手が請求内容どおりに慰謝料を支払ってくれることもあります。
ところが、その後、不貞相手が他方配偶者(不貞行為をした配偶者)に対して「求償権」を行使したことによって、他方配偶者が不貞相手にお金を支払わなければならなくなるケースがあります。求償権とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
不貞行為をした配偶者と不貞相手は、一方配偶者に対する「慰謝料(不法行為に基づく損害賠償債務)」に関して、不真正連帯債務の関係にありますが、これは、両者が連帯して1つのという債務を負うことを意味します。
不真正連帯債務が成立する場合、各債務者は債権者に対して債務全額を支払う義務を負う一方、各債務者間においては、それぞれ、債務額に関して負担部分を有しています。
つまり、一方債務者は、自己の負担部分を超えて支払をした場合、他方債務者に対して求償権を行使できます。求償権というのは、連帯債務などにおいて、一方債務者が自己の負担部分を超えて支払った部分について、他方債務者に対してその部分について金銭を支払うよう請求をする権利のことです。
2.不真正連帯債務には負担部分がある
次に、負担部分について解説します。
先ほど説明したとおり、一方債務者は、自己の負担部分を超える支払いをした場合、他方債務者に対して、自己の負担部分を超える部分について求償権を行使することができます。これをわかりやすく説明すると、一方債務者が他方連帯債務者に対し、「自分が払いすぎた分」を返してもらうということになります。
これを夫が不貞行為して慰謝料が300万円であるという事案を例にとって考えてみましょう。
この事案において、妻は、不貞相手のみに慰謝料請求をして300万円全額の支払いを受けることができます。妻が不貞相手から300万円の支払いを受ければ、夫に対してこれを超えて慰謝料を請求することはできなくなります。
もっとも、この慰謝料300万円について、夫の負担割合が200万円、不貞相手の負担割合が100万円である場合、不貞相手は夫に対して、求償権を行使して、払い過ぎた200万円の支払を請求できます。
このことからすると、不貞行為をした他方配偶者と婚姻継続する場合、不貞相手から慰謝料全額の支払いを受けたとしても、その後に求償権を行使されると、結局、他方配偶者が不貞相手に自己の負担部分に相当する金銭を支払うことになるので、夫婦一世帯の財産という点からは、不貞相手の負担部分に関する慰謝料しか取得することができないということになります。なお、このことは、他方配偶者と離婚するのであれば当然問題になりません。
3.不貞の場合の負担割合はどのくらい?
では、不貞行為をした他方配偶者と不貞相手の負担割合は、それぞれどのくらいになるのでしょうか。
不貞の慰謝料については、他方配偶者の方が不貞相手よりも責任が大きいと考えられます。個々のケースによっても異なりますが、
だいたい配偶者:不貞相手が、6:4~7:3程度の負担割合になることが多いでしょう。
不貞相手に対する慰謝料請求をする場合には、この負担割合を踏まえた求償権の問題に充分注意しながら手続をすすめる必要があります。
後から負担部分を主張されないようにあらかじめ相談を
不貞の慰謝料に関して、不貞行為をした他方配偶者と不貞相手は不真正連帯債務の関係に立ちます。両者は自己の負担部分を超えて慰謝料の支払いを行った場合、他方に対して、その超えた部分について求償権を行使することができます。
よって、不貞相手から慰謝料全額の支払いを受けても、後に不貞相手が他方配偶者に対して求償権を行使して、自己の負担部分を超えた部分について支払を求めてくる可能性があります。不貞行為をした他方配偶者と不貞相手の負担割合は、概ね6:4~7:3くらいで、配偶者の方が高くなります。
そうなると、配偶者は不貞相手に支払いをさせたつもりでも、結果として自分に請求が来てしまうことになってしまいますので、早めに弁護士に相談し、自身の負担分や、求償権の行使について取り決めをしておきましょう。