養育費とは

養育費の算定方法親は子どもに対して扶養義務を負っています(民法877条1項)。
この扶養義務の程度については,「自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務」(生活保持義務)があるといわれています。
そして,親は,未成年の子に対する扶養義務として,子どもが生活するために必要な費用である「養育費」を負担する義務があります。
この養育費の負担義務は,婚姻中であれば,「婚姻費用」の一つとして負担する義務があります(民法760条)。
この養育費の負担義務は,親権者のみが負う義務ではありません。
例えば,離婚をする際,夫婦のどちらか一方を親権者と定めなければなりませんが(民法819条1項・2項),親権者とならなかった親も,監護費用分担義務として養育費を支払う義務があります(民法766条)。
また,婚姻関係にない男女の間に子どもが生まれ,男性がその子どもを「認知」した場合(女性が親権者),その男性とその子どもとの間には,「法律上の親子関係」が発生します。
その男性は,子どもに対して扶養義務(民法877条1項)を負いますので,養育費を分担する義務があります。
このように,「法律上の親子関係」がある場合には,その親は,未成年の子どもに対して扶養義務を負いますので,養育費を分担する義務があるということになります。
もっとも,例えば,妻が婚姻中に夫以外の男性との間にもうけた子について,夫とその子との間に法律上の親子関係があったとしても,離婚後に,元妻が元夫に対して養育費の支払いを請求することは権利濫用であり許されないものと考えられます(最高裁判決平成23年3月18日集民236号213頁)。

成人になった子どもに生活費を支払う必要はあるか

子どもが成人すれば,親の親権には服さなくなります。
つまり,成人になった子どもは,親から自立して生活していかなければならないというのが法律の建前です。
したがって,親は,成人に達した子どもに対して,監護費用分担義務としての養育費の支払いをする必要はありません。
しかし,大学等に進学した子どもは,成人になったとしても,通常は定職に就いていない場合が多く,自立して生活することはできないと思います。
このような場合,親は,直系血族に対する扶養義務として,なお学費等を含めた生活費の支払い義務があるとされることが多いと思います。
なお,自ら自己の資産又は労力で生活することができない子どもを「未成熟子」といいます。
成人に達した子どもであっても,その子が大学生の場合には,この「未成熟子」に該当することが多いと思います。

大学卒業までにはいくらかかる?

子どもを育てるにはお金がかかります。
ここでは,「学費」(教育費)と,それ以外の衣食住等にかかる費用(以下では「基本的養育費」といいます。)の二つに分けて説明していきます(この整理は「AIU保険会社『現代子育て経済考』2005年度版」による。)。
まず,「基本的養育費」の概算は次のとおりです。
この概算は,子どもが大学に進学することを前提としていますので,子どもが22歳になるまでの費用を算出しています。

子どもの私的所有物約93万円
出産・育児費用約91万円
22年間の食費約671万円
22年間のおこづかい額約451万円
22年間の衣料費約141万円
22年間の保健医療・理美容費約193万円
合計(学費以外)約1,640万円
子どもが22歳になるまでの費用

※子ども応援だよりウェブサイトより。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku_kondan/kaisai/dai9/siryou6.pdf

これを見ますと,「基本的養育費」には約1,640万円もの金額がかかることがわかります。
そして,この「基本的養育費」に,「学費」を加えた金額が,一人の子どもにかかる大学卒業までの総費用となります。
学費は,公立校か私立学校かによって随分変わりますし,大学まで進学するのか否か,さらに,大学に進学するとしても理系なのか文系なのかによっても変わってきます。
ひとり親世帯において,子どもに関する最終進学目標は,母子世帯,父子世帯ともに「大学・大学院」が約4割といわれています。

子どもに関する最終進学目標

※以上,「厚生労働省『平成23年度全国母子世帯等調査結果報告』より」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/boshi-setai_h23/

この調査からわかるとおり,ひとり親世帯においても,子どもの進路として大学進学を希望することは普通なのです。
では,「学費」を加えた金額はいくらになるのでしょうか。
この点については,下の表を見てください。
最も安いと考えられる,公立幼稚園から始まり大学も国立大学を卒業するというパターンであっても(下図の左から1番目),学費(教育費)の合計は約1,345万円かかります。
「基本的養育費」を加算すると,合計額は約2,985万円かかることになります。
比較的多いと思われる,高校及び大学が私立学校であるパターンであると(下図の左から4・5番目),文系の場合は合計額が約3,407万円であり,理系の場合は約3,523万円になります。

基本的養育費

さらに,進学塾に通った場合には,通塾費用が上記に加算されます。
例えば,浪人をした場合には,1年間で約100万円程度の通塾費用がかかるといわれています。

養育費の具体的内容

養育費の具体的内容 養育費は,冒頭で説明した「生活保持義務」として履行されるものですから,その支払われる金額は,親の収入によって変わると考えられています。
養育費の具体的内容としては,食費,衣類費用,学費等の様々な費用が含まれていますが,「この費用は含まれる」「この費用は含まれない」といった形で明確に区分けすることはできません。
家庭ごとに,教育の考え方やそれに伴う経済事情も異なりますから,養育費の内容もそれに応じて変わってくるものと思います。
この点,養育費の算定にあたっては,裁判所から一定の算定表が公表されています。

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

もっとも,養育費の金額等をどのように決めるかは,まずは,両親が自分の子どもがどのように育って欲しいかという観点から話し合って決めるべき事項でありますから,養育費の金額等も自由に定めることができます。
算定表は,養育費を巡って調停・審判・裁判に発展した場合に,裁判所で用いられるものです。
また,調停等では,この算定表を基準に考えることになりますが,全ての事件において,算定表に100%縛られて養育費を算定しているわけではありません。
以下では,養育費の具体的内容に関して,紛争になった場合にしばしば問題となり得る事項を説明していきます。

①私立学校の学費

子どもの養育費の算定に当たっては,公立中学校・公立高校の学費は当然考慮されますが,私立中学校・私立高校の学費まで考慮されるのかという問題があります。
この点については,分担義務者(肩親)が私立学校への進学を承諾していたり,分担義務者の経済状況に照らして,私立学校の学費を負担させるべきという場合があります(算定表から算出される養育費に私立学校における学費等を考慮して修正した事例として,大阪高裁決定平成26年8月27日判タ1417号120頁)。

②大学の学費

大学の学費についても,私立学校の学費で説明したのと同じように考えられます(養育費の算定に際し大学の学費を考慮したものとして,大阪高裁決定平成27年4月22日,東京地裁判決平成26年5月29日等)。

③成人に達した子どもの生活費・学費

親は成人に達した大学生の子どもに対して学費・生活費を支払わなければならないかという問題があります。
この点については,昨今の大学進学率の高さからすれば,親に経済的余裕があり,子どもの大学進学を承諾している場合には,大学生である子どもが成人したとしても,その時点で学費・生活費の支払いをストップすべきではないと考えるべきであり,実務上もそのように考えられているように思われます(東京高裁決定平成22年7月30日家月63巻2号145頁,東京高裁決定平成12年12月5日家月53巻5号187頁等)。
また,大学進学に関して親の承諾がない場合であっても,親の職業や経済状況等に照らして学費負担が認められる場合があると考えられます。

東京高裁決定平成22年7月30日家月63巻2号145頁は,「現在,男女を問わず,4年制大学への進学率が相当に高まっており(審問の全趣旨。加えて,大学における高等教育を受けたかどうかが就職先の選択や就職率,賃金の額等に差異をもたらす現実が存することも否定しがたい。),こうした現状の下においては,子が4年制大学に進学した上,勉学を優先し,その反面として学費や生活費が不足することを余儀なくされる場合に,学費や生活費の不足をどのように解消・軽減すベきかに関して,親子間で扶養義務の分担の割合,すなわち,扶養の程度又は方法を協議するに当たっては,上記のような不足が生じた経緯,不足する額,奨学金の種類,額及び受領方法,子のアルバイトによる収入の有無及び金額,子が大学教育を受けるについての子自身の意向及び親の意向,親の資力,さらに,本件のように親が離婚していた場合には親自身の再婚の有無,その家族の状況その他諸般の事情を考慮すべきであるが,なお協議が調わないとき又は上記親子間で協議することができないときには,子の需要,親の資力その他一切の事情を考慮して,家庭裁判所がこれを定めることとなる…」として,義務者に対し,子どもの学校関係費用,生活費等の不足額の一部を,子どもが大学を卒業すると見込まれる月まで,扶養料として支払うよう命じました。

養育費の請求に悩んだら弁護士に相談を

ここまで説明したように,相手方に対し養育費の分担をいくら求めるかは,子どもにどのような教育を受けさせたいか等によって変わってくると思います。
ただ,養育費については,算定表に従った金額しか取れないという誤解も多く,私立学校の進学や大学進学を諦めてしまう人もいるのではないでしょうか。
子どものために,元パートナー(あるいは認知した相手方)にも金銭的な協力をして欲しいと考えている方は,まずは専門家である弁護士に相談してみるのがいいでしょう。


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